【短編】落とし物

失恋して悲しくて、途方に暮れている女性

 

繰り返す喪失。

 

"もう慣れたわ"

 

そんな言葉を並べてみたけれど
「嘘をつくな」と、心は反発するのだ。

 

腐った大地に
あたたかな光を零し
清らかな水を巡らせて

 

あなたの手で
蒔かれた種子は

いつの間にか芽吹いて
花が咲き誇った。

 

私のセカイを
美しいものに変えたあなたは

ナニモノかに奪われて
もう此処にはいない。

 

失う痛みなら
もう何度も味わったのに

意識の外側で
五感は研ぎ澄まされ

どうしようもないくらいに
寂しくて恋しくて

心をどこかに
吹き飛ばしたい衝動に駆られる。

 

セカイにある
大部分の美しさが損なわれたのだ。

 

だって、
あなたはもう此処にいない。

 

ああ、あなたがくれた彩を
守り抜きたいのに。

 

 

どうして私はこんなにも
このセカイに馴染めないのだろう?
このセカイに絶望してしまっているのだろう?

 

すべてあるのに何もない
そんな感覚が根付いてしまった。

 

それとも私は
何かを落としてきたのだろうか?

 

心のキズを丁寧になぞると
あなたを手放した痛みのほかに


何かもっと
重大な何かを失ったような
そんな嘆きが内側から聞こえたような。

 

 

私は一体

何を落としてきたのだろう?